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Vol.29
秋晴れのもと、頂上から見た湖面は、
未確認生物でも棲むような深い色をたたえていた。
今熊山 いまくまやま 573m 山形県最上郡戸沢村
雪の季節になると、月山は半円の山容を庄内平野に浮かべて、とりわけ悠然とした姿に変わる。
彼方に白く輝くまどかな山があり、
この世ならぬ月の出を目のあたりにしたようで・・・
眺めるたびに思い出す、森敦著「月山」の一説だ。
だが北方に、険しい山が縦横に広がることを知っている人は少ない。複雑な地形とあまりの積雪量のために、ブナ伐採でならした林野庁も手を出しかねた地域と聞く。
今熊山は豪雪に磨かれたその北方山域にあり、登山道が通じる数少ない山である。標高が低いわりに、急峻でなかなか手強い一面を持っている。それでも小さい山なため、今回は西の渓谷に離れている、浄ノ滝探訪といっしょの山行を立案した。
無名山塾のホームページで初めて申し込みされたSさんと、陸羽西線の「古口駅」で待ち合わせした。40代前半の人当たりの良い、体格のしっかりした人だ。仙台から酒田に単身赴任しており、鳥海山に登ったのがきっかけで山に目覚めたのだという。
駅の西側、最上川にそそぐ角川沿いの道を南へと入る。郵便局から右へ、すこし細くなった道を行く。今年の紅葉はあまりぱっとしないが、それだけにやさしい感じがする。途中の集落では、イチョウが鮮やかな黄金色に輝いていた。
奥へ進むにつれ、やや悪路になってきた。行き止まりとなる今神温泉手前に、登山口を見つける。今神温泉は夏のあいだだけの温泉で、もともとは今熊野神社の霊湯のひとつとして開かれている。一般の温泉ではなく、灯明をあげて念仏を唱えながら二時間も三時間も浸かるのだ。今は休業状態らしい。
踏み跡程度と思われる道があり、急な山腹をからむように登って行く。20分も入ると、やがて明るくなって御池のほとりに出た。風ひとつなく、静止した水面に色あせた緑のまじった紅葉が柔らかく映り込み、ほっとするような美しさだ。周囲の地形から見て、どうやら地滑り湖と判断する。
尾根を越え、小沢に沿って下り、一転して130mほど登る。山腹をからみ、鞍部を越え、谷を渡ったりの不明瞭な道を1時間以上たどる。ブナ原生林のなかの傾斜の緩い地形を選ぶように踏まれていて、なるほどと思わせる。ガイドブックの道記号はずいぶん間違っていたが、複雑なので仕方ない。
…と、浄ノ滝に出たとたん、驚いた。20人以上のハイカーが、のんびり弁当を食べているではないか。目を丸くして聞いてみると、JRのツアーで来ているとのこと。マイクロバスを降りて、30分くらいだという。いやはやこの時代、どんな秘境も消費の対象となってしまうのか、オーマイガァッ!
今熊山へは、稜線上の岩を避けていったん下り、雪崩で引きはがされた草つきを登った。狭い稜線を行き、ついに祠の奥にある三角点に立つ。南側がスッパリ切れ落ちており、身を乗り出すようにして御池の写真を撮る。原生林に開いた青い瞳をのぞくと、謎の生物でも現れそうな気配があった。江戸中期の「今熊野大権現略縁起」では「ときに大きな白鳥が飛来し、ときに丈余の大魚が百頭も遊泳…」と記されるらしい。
下山路も不明瞭な道だった。標識もないけれど、標高の低い山なのでこれくらいがちょうどいいと思った。未確認生物どころか、熊も姿を見せなかった。
帰りがてら、長倉地区の今熊野神社に立ち寄ってみた。「長倉の大杉」と呼ばれる巨木が、境内の狭い台地にそそり立っていた。胴回り12m、高さ40メートル。みんなほれぼれと眺めいった。巨木ブームに隠れて、4軒しかない最奥の集落に守られてきた宝であった。(06年10月中下旬・ガイド登山)
*アクセス:仙台宮城IC〜古川IC〜47号線〜新庄市〜戸沢村〜今神温泉手前
*参考コースタイム:登山口・駐車場(20分)御池(1時間30分)浄ノ滝(1時間20
分)鞍部(50分)今熊山(50分)林道(5分)駐車場(休憩時間含まず)
* 2万5千図:肘折・立谷沢
* アドバイス:標識が少なく、道もそれほどしっかりしていないので、慎重に。
* 問合せ先:戸沢村役場0223-72-2116
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