深野稔生の山遊び十二カ月

SlowTrek山便り
 

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Vol.27
森の奥から尽きることなく繰り出されてくる豊穣の水。
仲間たちとひたすら追いつめて行った。

桃洞沢(とうどうさわ)遡行 森吉山(もりよしざん)(1454.2m) 秋田県森吉町

 

 「山便り」に森吉山を書くのは、たしか三度目である。夏山、冬山そして今回の沢登り。季節によってもそうだが、山は登り方を変えることによって表情が大きく違ってくる。山と深くつきあうには、できればいろいろな方法を持っていた方がいい。

 さて、日本全土を襲った今年七月の「梅雨破壊前線」。長野や鹿児島では洪水、土砂崩れなど桁違いの猛威をふるった。そして梅雨明け直後の桃洞沢…。これまで経験したなかではいちばん水量の少なかったので、拍子抜けしてしまった。秋田は全国平均的に見れば、意外に梅雨の影響を受けない地方かもしれない。

 桃洞沢を含むノロ川一帯も、ひところから見ればすっかり有名地となった。キャンプ場はもとより青少年活動センター、環境庁による野生鳥獣センターができるなど大規模に開発され、それこそ野性鳥獣がいなくなってしまうのでは、と心配したくなるほど整備された。

 一日目は山麓でのキャンプ、翌日桃洞沢を遡行して隣の赤水沢を下降、帰仙という計画だった。いつものようにYさんを中心とした女性陣の心のこもった晩餐で、テントの傍らのにわかビュッフェはにぎやかだった。キャンプの夜って、どうしてこんなにしあわせ気分に満ちているのだろう。誰の表情も生き生きしている。陽が落ち、切った細い爪のような月が輝きを増してくると同時に、天球が大きく広がり、肉眼で見える最大数という8600個の星を全部独占した気分になった。

 サブリーダーのN氏などは蚊の猛攻をものともせず、しばらく外にマットを敷いて仰向けになり、大空を翔けるミルキー・ウエイに酔いしれていた(ウイスキーに、かな?)。いつもながら、人生の楽しみ方を知っている男だなぁと感じ入った。

 ノロ川は名前のようにゆったりと蛇行し、上谷地(かみやち)という湿地帯をつくっている。そこをブナ原生林につつまれた、すてきな散策路が巡っている。サワアジサイの空色に飾られた道をゆっくり40分、赤水沢とドウド沢の出合いに着く。今の時間だと人に会わないのがいい。さらに20分ほど沢沿いを歩いて桃洞滝となった。

 左岸に取り付くが、なんと足場が切ってありスタスタと登れてしまった。以前はこんなはずではなかったが…。さすがに滝の上からは、観光客と無縁の世界となったので、ほっとする。

 沢全体に広がる水が、木漏れ日をゆらゆら踊らせて流れてくる。晴天の夏日だというのに、水冷式クーラーなので、気温も滝の下方よりずっと低い。ナメ(どこ)の深みに足を浸して、時々現れる滝はフリクションで登ったり、小さく巻きながら流れの奥へと分け入ってゆく。中ノ滝、男滝と、水と岩の戯れを追いかけてゆくのは、なにやら好奇心がくすぐられて心地よい。

 尾根上に桃洞スギの原生林が林立している。いい木と見れば片っ端から収奪して行った林野行政の歴史から見れば、標高の低いこのようなところに残されたのは奇跡に近いだろう。それでこのようなすばらしい渓谷が残されたのだ。もうこれ以上はそっとしておいて欲しい。

 標高850mの源流分岐を探し当てた。源流域での沢選びには注意を要する。目的の二俣を左にとって40mも登れば、赤水沢との分水嶺に出るはず。深い木陰の下にピンクのショウキランを見つけ、まばらな薮のなかを登った。

 尾根上に達したあとは、流れに従って下るだけだった。やや急で細い、ボブスレー状のナメを注意深く降りてゆく。やがて広い本流に解き放たれた。ほっとひと休みした河原石に、小さな翡翠色の羽が置かれていた。カワセミが落としたものだろうか。精緻なつくりに輝く自然の芸術品に、一同しばし見ほれた。

 水をたたえたナメ床がどこまでも続き、ときどきロープによる懸垂下降もあった。飛び込んでしまいたい滝壺もあったが、私たちは慎重だったし、(けが)すようでいやだった。兎滝という大滝の懸垂をしながら下を見たら、遠くに観光客の姿が見えていた。(06年8月初旬・ガイド登山)

*アクセス:仙台宮城IC〜横手IC〜阿仁町〜森吉山山麓〜野生鳥獣センター〜桃洞沢〜赤水沢〜野生鳥獣センター

*2万5千図:森吉山・玉川温泉

*アドバイス:一般コースではありません。また沢登りとしては容易ですが、水量の多いときは要注意。


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