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Vol.22
登山者には滅多に会わない、地味な山域。
秘境の味わいをちょっぴり楽しんだ。
桑原岳1126.8m 岩手県奥州市(旧胆沢町他)・秋田県東成瀬村
大阪は尼崎からゲスト参加したM君に言わせると、最近は栗駒山の名前がミネラルウォーターの商品で知られてきたらしい。複雑な心境である。焼石岳でさえあちらでは知る人はまだ少なく、マイナーな山だそうだ。それでいいのに…。
桑原岳連峰は栗駒をしのぐ山域を持っていながら、登山道はほとんどない。また非火山性のため「栗駒、焼石の間に沈み込むように連なっていて」(30年前の会報に書いた表現)、標高も低い。見せ場もとくになく、超マイナーな山である。
この山域にはじめて入った山行は71年の10月半ば、沢登りだった。源流域に達しても群泳していた岩魚に、目をみはった記憶がある。標高500m付近の、雪崩で圧縮された残雪にも驚いた。その後思い出したように入り、数年前大沢遡行で素晴らしい天然石橋に出会って感動した。荒々しい自然の造形は、やはり秘境の名にふさわしいと深く頷かされたのだった。
山の会の山行で、今回なぜか私のパーティーは石渕ダムから入る割当となった。遠方からのM君には気の毒で、長い林道歩きが思いやられる。ラッセル次第では、山頂が踏めないかもしれない。
ダム堤に無理矢理車を入れ、8時過ぎ出発。高気圧に覆われて気温が高く、雪は締まっている。1キロほど進んで猿岩隧道となった。素掘りのトンネルで、もちろん照明がない。先頭が出口の光を遮ると、思わず空間識を失いそうだ。途中でヘッデンを点けてしまった。新しくダムができればここも水没するというが、巨大岩魚の棲処にでもなるのだろうか。
隧道を抜けて、再びシールスキーを履く。少々急いだとてどうにかなるものでもなかろうと、のんびり行く。今年は2月頃までは大雪で騒がれた割に、3月に入ってから大きな積雪を見ない。雪解けも例年より早いようで、川の輝く雪景色は春の気分に満ちていた。
7キロも歩いたろうか、やっと目指す大沢の出会いに着いた。地形図にはまだ記載されていない、アーチ形の立派な橋が架かっていた。いずれ胆沢町と一関を結ぶ道ができるのだろう。これでまたひとつ、私たちの秘境が消える。
さらに2キロほど、手強い大森山をやり過ごすため大沢沿いに進む。左からの支流に入って進むうち、両岸迫った地点に達した。対岸に渡るわけにもいかず、沢にせり出す雪壁を強引にスキーのまま突破するしか方法がなかった。スノーブリッジを渡るところもあり、コンターラインが緩くなるまでの1キロほどに、神経を使わされた。
うんざりした感じはあったが、当初幕営を予定していた稜線まであと300メートルと迫った時、今日中にピークをとるべく覚悟を決めた。ところが、851ピークの南の鞍部のゆったりしたブナ林を登り、945ピークに近づいたとたん、期待は裏切られた。大沢から吹上げる季節風の通り道らしく、稜線にはほとんど雪がない。かわりに、南側に吹き溜まった雪庇がその膨大な量の自重でズリ落ち、亀裂が入っている。底雪崩の季節になっていた。
ズタズタの雪庇越しに、夕まぐれの栗駒山がゆったりと裾を引いて姿を見せた。思いがけないことだったので、ことさら素晴らしい眺めに感じられた。
雪の少ない北側をなんとかスキーのまま突っ切ると、ようやくおおらかな尾根にたどりつく。午後4時30分。一関方面からのAパーティーは、すでに桑原岳を越えて来ており、幕営の準備をしていた。明日の悪天が予想されるので、私たちも今日中にピークをとることにした。
空身のまま堅い斜面を登ってゆくと、ドーム形の雪庇に覆われた頂上に到達した。9時間の行動の末だった。豪雪に眠る山々の真ん中、激しく崩壊する谷に架かる石橋に出会って以来の、まったく別世界の頂上だった。(06年3月中旬)
*アクセス:仙台宮城IC〜水沢IC〜石淵ダム
*参考コースタイム:石渕ダム(3時間15 分)大沢出会(50分)左支流に入る(2時
間20分)851P北鞍部(1時間)980独標下部幕営地(30分)桑原岳
* 2万5千図:焼石岳・石渕ダム・真湯温泉・高檜能山
* アドバイス:積雪期なので、各自の判断によります。
ヘッデン:ヘッドランプと懐中電灯を合わせた造語。
石橋:しゃっきょう(ルビ)
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