深野稔生の山遊び十二カ月

SlowTrek山便り
 

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Vol.17
冬を待つ束の間、木々は赤や黄色の微光を放ち、
静かに輝いていた。


青森県十和田湖町・青森市 
十和田山とわだやま1053.8m・八甲田大岳 はっこうだおおだけ1584.4m

 

 走るバスの窓から、緩急交えて流れる渓流を見るのも、違った趣きがあっていい。たっぷりと膨らみながらモノトーンに暗くよどむかと思えば、次の瞬間逆光が水面に襲いかかるように輝き、激しく落走して行く。両岸奥で見え隠れする滝に目をこらす間もなく、苔むした岩壁がそれをさえぎる…。頭上を覆う樹林の下でめまぐるしく繰り広げられる、それはまさしく渓流絵巻。新しい鑑賞法を見つけた気分があり、奥入瀬川は、動画体験の方がずっと楽しいのだった。

 大町桂月(1869〜1925)が十和田湖を訪れたのは、明治四十一年八月の十八日間。友人に誘われてではあったが、その奥深く素晴らしい風景に心を奪われた。そしてついには、本籍を十和田の蔦温泉に移しそこに没する。「奥入瀬の渓流の幽静、天下無比…」と絶賛、「みちのくの十和田の山に血を吐いて、このまま死ねば我は本望」とも詠んだ。古来評価の定まる関東・関西の名所よりも、優れた勝地を道の奥に見い出したという満足感があったのだろう。

 さて、私たちは一泊二日の旅、初日は湖の東にそばだつ十和田山に登った。目立たない登山口を見つけ、有料となっている「花鳥渓谷公園」の脇、民家の畑道を一列になって行く。公園の芝生には栗がたくさん落ちていて、ダメとは知りながらつい拾いたくなる。

 いきなり暗い森の中に入る。そして急である。だが国有林らしく、伐採の形跡がないのが嬉しい。669mの尾根に出るといくぶん緩やかになり、太いブナやミズナラが目立ってくる。キノコはどれもツキヨタケばかりで、食茸は見当たらない。しかたなく割いて見せたりして、毒キノコの判別を実演した。

 頂上に着くと突然視界が広がり、空の下に解放された。振り返ればイチイの低木越しに十和田湖が光り、白神山地や岩木山が指呼された。目の前には戸来岳や十和利山が横たわる。誰かが、はるか南に岩手山を見つけてくれたのには驚いた。

 夕暮れ間近か、奥入瀬渓流の風景を車窓から楽しみ、一路蔦温泉へ。正面玄関のトチの木の看板をくぐったら、たちまち温泉モード全開になった。

 蔦温泉に憧れて、どうしても一度はという人も多かったようだ。板敷きの真下から透明な源泉が湧き上がり、尽きることなくとうとうと溢れて行く浴槽が素晴らしい。身を沈めていると命まで洗われるようで、のぼせるのも忘れてしまう。本望だ…と今宵ばかりは、桂月の気持ちが分かった気になる。床に着くまでに、何度か湯を楽しんだのだった。

 予報がはずれたか、嬉しいことに翌日も晴れた(ガイドに責任はないのだが、天気が悪いと申し訳ない気持ちでいっぱいになる)。酸ケケケ湯温泉の駐車場から東へ、地獄湯ノ沢へ向けて出発する。気温、湿度とも快適な山歩きだ。ヤマモミジが陽光に透けて、明るいトンネルをつくっている。沢を左岸に渡り硫黄臭がきつくなると、仙人岱湿原はもうすぐだ。

 仙人岱ヒュッテでひと休みしたあと、八甲田清水を汲み、いよいよ眼前にそびえる大岳へ。高差300メートル足らず、急ぐことはない。登るにつれて東側にひときわ目立つ高田大岳、南八甲田の山々が湿原をちりばめて広がる。鏡沼のほとりで、紅いナナカマドの実が迎えてくれた。頂上の大展望は欲しいままにできたが、風が強かった。

 毛無岱湿原は紅葉の盛りが過ぎたのか、枯れ草色が動物の毛のようにそよいでいた。湿原台地をとりまく山腹斜面では、まだブナなどの黄色とオオシラビソの青とが微妙な色で競い合い、静かに輝いていた。

 湿原をあとに、最後の下りを森の中へ入る。風が吹き渡ると、色も控えめな木の葉がいっせいに空を舞う。ああ、今年の紅葉も終わりに近いんだ…と、ひとりごちして胸がいっぱいになった。(05.10月中旬・ガイド登山)

*アクセス:仙台宮城IC〜十和田IC〜103号線〜十和田山〜102号線・103号線〜蔦温泉・北八甲田

*参考コースタイム:登山口(2:00)十和田山 登山口(1:00)仙人岱(0:50)大岳(0:15) 大岳ヒュッテ(0:30)上毛無岱(0:30)下毛無岱(0:45 )酢ケ湯温泉

* 2万5千図:十和田湖東部/八甲田山・酢ケ湯・雲谷(もや)・田代平

* アドバイス:時期にずれがあり、奥入瀬の紅葉と毛無岱の紅葉を一緒に楽しむのは難しい。城ケ倉温泉に入浴して帰仙した。

大町桂月…おおまちけいげつ 蔦…つた 毛無岱…けなしたい 田茂やち…たもやち

戸来岳…へらいだけ


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