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Vol.14
通称カムエク。一夜明ければ、晴天。
カールにテントを残して、頂上を目指した。
日高山脈・カムイエクウチカウシ山 1979.4m 北海道十勝支庁中札内村・日高支庁静内町
前夜は8時ころ仙台港を出航。フェリー「いしかり」は、20ノットほどの速度で北上した。朝7時半、レストラン「カリブ」でバイキング朝食をとった。尻屋崎沖を通過中らしいが、霧で海面しか見えなかった。
苫小牧では、車中での昼食を買いに、新しくできたという「ジャスコ」へ。その巨大さ、品揃えの豊かさが目映かった。ショッピング気分を抑えられない仕掛けになっていた。
太平洋沿岸に続く235号線を、一路襟裳岬方面へ向かう。南下するにつれて海霧が晴れ、会話もはずんでくる。オスカー・ピーターソンのピアノが、ドライブ気分を盛り上げてくれた。
日高山脈を貫くトンネルをぬけ、札内園地に着いたのが4時過ぎ。キャンプ場を下見していたら、幸運にもキタキツネの姿を見かけた。私たちはその先の終点にある「札内ヒュッテ」(無人)に泊まることにした。
翌日、いよいよ登山開始である。林道を2時間ほど歩き、札内川に入る。ここからは徒渉と踏み跡をつないで行くしかない。数日来雨は降っていないようだが、一部流速が強く苦労するところもあった。源流域が広い川なので、増水すると怖い。遭難事故もよくあると聞く。
2時間半ほどかかった八ノ沢出合いのキャンプサイトには、テントがいくつか見え、すでに先行しているようだ。普通はここで二泊して頂上を目指すらしい。ゴーロをさかのぼって行くと、谷が開けて突然雪渓が現れた。かなり大きい。前方、雪渓がつきるところに落差百メートルと言われる大滝が見えた。左と右からも真っ白い滝が合流する三股で、予定していた999メートル地点でのキャンプができないことを知る。カールまでさらに高差600メートル近くを登らねばならない。
瀑流の右手を登るのだが、踏み跡がしっかりしていて普段沢登りをしている身にとってさほどの困難さはない。高度を稼ぐうち、上流で再び雪渓が現れた。八ノ沢テント泊の登山者だろう、こわごわ雪渓を降りてくる。いかにも初心者風の人々で、この山の人気の程を知らされた。カールで親子のヒグマを見たという情報は有り難かった。
彼らはほとんどが、フェルト製沢靴とハイカット登山靴の二足を持参していた。私たちは水陸両用のKランド・スパイダー一足なので、身が軽かった。日本の夏山でも重登山靴、という迷信は百年たっても消えないかもしれない。
カールに着いたときは、4時をまわっており、すっかりガスに包まれていた。大きな岩に埋め込まれたプレートを、ガスの中に見た。昭和四十五年、ヒグマに襲われて亡くなった学生たちの慰霊碑だ。氷河期の香りをたたえたカールは、ヒグマの採食地でもあった。
雪渓から流れ出す小流があり、絶好の幕営地を見つけた。風が強く視界がない台地でのテント泊。神妙に過ごさなければいけなかったろうが、ビールも冷えていたせいか盛り上がる一方だった。
翌朝四時、テントから首を出すと東の空がモルゲン・ロートに染まっていた。山頂に一部風が残るものの、やがて晴れるだろう。用意ももどかしく出発した。もちろん食料類一切はザックの中に入れて。
カムイエクウチカウシ…熊神様が岩崖を踏み外して落ちる…とアイヌ語に呼ぶ山はまさしく急峻で、威厳があった。稜線に二カ所ほどフンを見かけただけで、その姿を見ることはなかったが。シベリア、カムチャッカなどに分布するキバナシャクナゲが鮮やかで、しばし心を奪われもした。
今日は一気に札内ヒュッテまで下ろう。鳴きウサギの声に送られて、長い下山の途についたのだった。(05.7月中旬・ガイド登山)
*アクセス:仙台港(太平洋フェリー)苫小牧〜浦河町〜大樹町〜札内川・日高山脈
山岳センター
* 参考コースタイム:札内ヒュッテ(2時間)七ノ沢出合い(2時間半)八ノ沢出合い(1時間40分)三股(3時間)八ノ沢カール(45分)稜線(1時間)
* 2万5千図:札内川上流・イドンナップ岳
* アドバイス:夏の初登頂が昭和4年と遅い山。基本的に標識、登山道はない。日高最深部ながら林道が延びて入山しやすくなった。反面、事故も増えており、経験者同行必要。
* 問合せ先:日高山脈山岳センター 0155-69-4378 中札内村役場 0155-67-2311
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