深野稔生の山遊び十二カ月

SlowTrek山便り
 

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Vol.11
大先達の山岳スキーヤーと、若いボーダー。
年齢を越えて、一人遊びのできる山に乾杯。
宮城県蔵王町・川崎町 中央蔵王 濁川スキー・クルージング

 

 こところ立て続けに、二回ほど単独行をする機会があった。無性に一人になりたくなるのもあるし、危険を伴う山行は、単独だと都合の良いことがある。

 蔵王の刈田岳から御釜に下り、御釜から流れ出る濁川をスキーで滑降、ひよどり越えまで下る。途中に立ちはだかる落差百メートルの不帰ノ滝を、どうクリアするか。やってみる価値はありそうだが、メンバーが三人ならリスクも三倍。単独なら一倍だ(変な理屈か)。いつかやってやろうと思いつつ、タイミングと天候の問題があり、とうとう四月に入ってしまった。それでも今年は雪が多く、三月半ばの状態なので助かる。

 天気図は南に高気圧、北に低気圧の南高北低。風は強いが、春の晴天特有の気圧配置となった。

 「みやぎ蔵王すみかわスノーパーク」のリフトは、一番乗りだった。シールを付けて歩き出すと、若いボーダーが後ろに歩いて来たので、おしゃべりしながら歩く。刈田岳往復の予定だという。28歳という若さがまぶしい。

 1時間ほどで頂上に到着。シールをはずして、滑降開始。御釜へ伸びる尾根に乗り、ほどよく締まった雪面をゆっくりターンして行く。思ったより容易に谷底へ滑り込む。谷は開けていて、明るい。剣が峰あたりをふり仰げば、急峻な雪壁がギラギラと逆光に輝き、小さな人間を脅かすかのよう。

 ヒドン・クレバスに注意しながら滑って行くと、前方に岩が立ちふさがった。夏の遡行時に、両岸とも壁になっていた廊下状の所だ。これまでの快適な状況は一変し、デリケートな地形となった。落ち込んでいて下が見えず、右岸へ渡っておそるおそる谷をのぞく。雪が割れて渓流の出ているところは、斜滑降で切り抜ける。ひょっとしたら上からの雪崩や誘発雪崩がありやしないか、おびえつつすばやく滑降した。

 山岳スキーの醍醐味は、滑り抜けるという線的行動だけにあるのではない。登ることはもとより、複雑な地形と渡り合いながら目的のラインを描き、攻略して行くこと、何度もトライして自分の世界にするところにある。

 狭い谷の出口は、滝の頭に発達した厚い雪庇となっていて、降りられない。やむなく右岸の急な雪壁を、強引に斜滑降で突っ切る。日の射さない谷間の柔らかい雪を滑って、口を開けた滝を回避したのが、11時。その先は、不帰ノ滝の上になる雪原台地が広がっていた。下は虚空へ百メートル、切れ落ちている。

 ひと休みしたあと、滝の左岸に降り口をさがした。覗けば想像したとおり、急な漏斗状の雪壁である。しかたなくその縁をきわどい斜滑降とターンで切り抜け、高度を下げて行く。一カ所、下れそうな壁を見つけ、しばし迷う。雪崩は? 滑れる傾斜か? などと躊躇するうちに喉が乾くのを覚えた。誰もいないと、弱気な性分は急に頭脳明晰となり、できない言い訳がいくつも出てくる。で、ついにダイブはあきらめた。あとで谷底が見えたとき、滑り込んでも良かったかなと後悔したのだが…。

 不帰ノ滝は時おり落石の音を響かせて、壮大な断崖の円形劇場のようだった。たった一人の観客はスキットルでひと口、乾杯しながらその光景を堪能した。 

 数日後、今度は五色岳に登り、頂上から東面の壁を狙った。そのときリフト終点で知り合った山岳スキーヤーが、なんと78歳。 刈田岳からパラダイスコースを滑るとのこと。前に知り合った若者との年齢差は50歳だ。大先達宣わく「山は一人遊びができるからいいんですよ。」と。納得! 「いいストックだねぇ、私も奮発しようかな…」とも。さすが現役である。大いに感激、尊敬した。人生その気になりさえすればいつも青春、勇気をもらってその日のスキー・クルージングを楽しんだのだった。 (05.04初旬)

 

* アクセス 仙台〜村田〜みやぎ蔵王スノーパーク〜刈田岳〜濁川

* 参考コースタイム リフト終点9:10〜刈田岳10:10〜お釜10:40〜不帰ノ滝上11:00〜ひよどり越え12:30〜すみかわスノーパーク駐車場14:00

* 2万5千図 蔵王山


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